川上恵(沙羅けい)の芸術村
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              佐保川をどこまでも



    春にある団体を案内するために、下見に佐保川沿いを歩いた。
    佐保川は奈良県の柳生街道の石切峠付近で生まれ、大和郡山市で大和川と合流する、
    全長、19Kmの一級河川である。

    佐保川の桜並木は見事だ。5キロの川沿いに約1、100本のソメイヨシノが薄桃色の
    帯となって両岸を染めている。
    咲き始めの恥じらうような桜、妖艶な夜桜、落花の舞、そして花筏。
    どの表情の桜も美しい。

    桜並木の見事さもさることながら、私は桜並木のエピソードにも惹かれている。

    1846年、幕末の頃である。
    奈良奉行所に川路聖謨(かわじとしあきら)という奉行が着任した。
    事実上は左遷であったが、彼は百姓や町人に手厚い政策を打ち、治安対策を行った。
    また、山林の復活や景観整備などに精力的に取り組んだ。
    佐保川沿いの桜の植樹もその一つである。
   

    大仏鉄道記念公園近くの川沿いに、ひときわ立派な桜がある。
    樹齢170年とも言われる「川路桜」だ。
    風格のある老桜は、地元の人たちによって手厚く守られている。
    川路聖謨は今も生きているのだ。そしてこれからも生き続けるのだ。
          
        佐保川の清き川原に鳴く千鳥 かわづと二つ忘れかねつも   作者未詳
        佐保川の小石 ふみ渡りぬばたまの 黒馬の来夜は年にもあらぬか
                                大伴坂上郎女

    川沿いには万葉歌碑が点々と置かれている。
    今回は晩秋の景色だが、春の佐保川が楽しみである。
      


                       2019.11,28